【現役コンサルタント解説】コンサルタントに必要なスキル・習得ポイント
テクノロジーの進化、コロナ禍、政情不安などによる急激な外部環境の変化が起こる中、企業が対応しなければならない課題はますます複雑になり、経営者は難しい意思決定を迅速かつ適切に行っていかなければなりません。このような状況の中、活躍するのが課題解決・変革のプロフェッショナルであるコンサルタントです。
しかし、
「コンサルタントって具体的にどういう役割なの?」
「コンサルタントをやるにはどんなスキルが必要なの?」
と思われている方も多いかと思います。そこで、本記事では、コンサルタントに必要なスキルとその習得ポイントについて解説します。
筆者は、某コンサルティングファームに所属する現役のコンサルタントで、大企業を中心に様々な業界に対してコンサルティングサービスを提供し、15年ほどのキャリアを有しています。また、最近は人材育成にも積極的に関与し、若手コンサルタントの成長を支援しています。それらの経験を踏まえて、一人前のコンサルタントになるために必要なスキルをどうやって習得していったのかを具体的な体験談とともにご紹介します。
本メディアをお読みの方はWebマーケティングに興味のある方や、Webマーケターを目指されている方が多いと思います。WebマーケターもWebマーケティングを使って企業の課題を解決するという点では、コンサルタントと共通するところがあり、また同じスキルを求められる部分もあるかと思いますので、参考になる部分は多いと思います。ぜひご一読ください。
コンサルタントの役割とは
コンサルタントと一言で言っても、戦略、業務、ITなど専門は細分化され、クライアントの期待や要求によって異なる場合もありますが、共通的な役割としては大きく以下3点です。
- アドバイザリー支援
クライアントからの相談や問い合わせに対して過去の経験や専門スキルに基づいて助言やアドバイスを行います。 - 課題解決支援
クライアントの課題や状況を把握し、クライアント固有の課題解決を支援します。解決策の提案だけで終わる場合もあれば、その実行までを担うこともあり、成果報酬型やクライアントと伴走して最終的な成功まで支援する場合もあります。 - プロジェクト管理支援
一般的にPMO(Project Management Office)と言われる役割で、プロジェクトマネージャーの補佐としてプロジェクトの進捗、課題、リスクなどを管理し、計画通りのスケジュール、品質、コストでプロジェクトを完了させることを支援します。大規模なプロジェクトになると関係者との合意形成やチーム間での意思疎通などが難しくなるため、コンサルタントがプロジェクト運営の専門家として支援します。
どのような役割においてもコンサルタントは中立的、客観的な立場で、企業の課題を捉え問題解決を支援します。
また、過去は市場調査や他社事例などの情報提供を中心とした依頼も多かったのですが、インターネットなどの発展により誰でも有益な情報が簡単に入手できるようになったため、そのようなニーズは薄れ、より専門的な知見が求められたり、企業固有の課題解決、実行・実装支援など、よりクライアントに近い立場での支援が求められるケースが多くなってきています。
コンサルタントに必要な7つのスキルと習得のポイント
コンサルタントは専門領域やサービス内容によって必要なスキルは異なりますが、コンサルティングファームに新卒で入社した方が3年以内に習得することを期待される基本的なスキルについてご説明します。
1.論理的思考力(ロジカルシンキング)
論理的思考力(ロジカルシンキング)とは、複雑な事象や課題を体系的に整理し、筋道を立てて考える力のことです。
課題や事象を分解して、問題の原因を突き止めたり、解決策を考えたりするときに使うのがこのスキルです。このスキルを習得することで、資料作成や分析など知識も経験もない若手でもプロジェクトに貢献できるようになり、すべてのコンサルスキルの基盤になります。問題解決やプレゼンテーションにおいて活用できるでしょう。
スキル習得のポイント
「論理的に考える」ことをクセづけるため、日頃から以下を意識する。
- 結論から言う。その後、理由を説明する
→「XXXである。なぜなら●●●だから」
→「XXXである。理由は3つです」 - 具体化・抽象化を意識する
→「XXXはたとえば(具体的には)、△△である」
→「一言で言うと、〇〇はXXだ」 - 構造化(ある課題や事象を抜け漏れなく因数分解すること)を意識する
→構造化を考える手法の一つとして「ロジックツリー」をご紹介。
ロジックツリー作成のポイント
・分解する際は、もれなくダブりなくを意識する。
・具体的な活動や施策になるまで分解する。
2.仮説思考力
仮説思考は、問題解決や意思決定の際に仮説を立て、その仮説を検証していく思考プロセスです。具体的な問題や状況に対して仮説を立て、それを実験や観察などを通じて検証し、最終的な結論や解決策に至ることを目指します。
コンサルタントは、プロジェクトが開始した時点で解決すべき課題に対する仮の答えを仮説として持ちます。そして、開始直後から最終報告書のドラフトを作り始め、プロジェクトを通じて仮説を検証・立証し、内容を固めていきます。
このような進め方により、プロジェクトを手戻りなく効率的に進めることができ、また、品質も担保されます。この仮説の筋の良さが、プロジェクトの成功を左右しますので、コンサルタントの必須スキルになると考えます。
スキル習得のポイント
日々の生活の中で仮説思考プロセスを取り入れる。以下は一例です。
- 世の中の出来事や興味を持ったことに対して、疑問を持つ
→「なぜあの商品は流行っているのだろうか?」「なぜあの店は繁盛しているのか?」「なぜあの人は仕事が早いのか?」 - 疑問に対して自分なりの答え(仮説)を考える
→「広告・プロモーションが20代男性のニーズに刺さったから」「コスパが良いから」 - 仮説を検証する
→インターネットなどを用いて答えを調べてみる
3.ファクトベース思考
ファクトベース思考は、情報や意見を客観的な事実やデータに基づいて判断し、分析する思考スタイルです。個人の主観や感情に左右されず、客観的な根拠に基づいて結論を導きます。
コンサルタントは、課題の重みづけや施策の効果などを定義する際、定量的な根拠に基づいてクライアントに提案します。第三者の立場であるコンサルタントにとって客観的な裏付けがないとクライアントに自信を持って提案できないですし、クライアントの納得感も醸成できないため、数字などのファクトで語る技術はコンサルタントにとって必須のスキルと考えます。
スキル習得のポイント
- 数字で語ることを意識する
→「XX%の人がこの商品に満足している」
→「〇人中×人がこの意見に賛成だ」 - 数字がない場合は作る
→「施策効果は他社の類似事例から類推して、X%の売上増が見込まれます」 - 事実と意見を意識して区別する
→「SNS広告はやっていない」は事実、「SNS広告をやるべきだ」は意見。この例は簡単ですが話の中には事実と意見が入り混じるので注意して区別が必要。
4.ドキュメンテーションスキル
コンサルタントは突き詰めると意思決定も含めてクライアントにアクションを起こしてもらうことがゴールであり、それを実現するためのコミュニケーションツールとして活用するのがドキュメント(資料)です。こちらの提案を効率的かつ的確に伝えるためのドキュメンテーション能力はコンサルタントにとって必須のスキルであると考えます。
スキル習得のポイント
- 目的と対象読者を明確にする
→「読み手にとって分かりやすくこちらの意図が伝わる内容になっているか?」を常に自問自答する。 - 簡潔かつ明瞭な文章を心がける
→分かりやすい論理展開(ストーリー)を意識し、冗長な表現や専門用語を避ける。 - とにかく書く、そしてレビューしてもらう
→どんな些細な会議や打ち合わせでもドキュメントを使ってコミュニケーションすることを心がけ、書く機会を多く作る。ドキュメントは他人にレビューしてもらい改善に活かす。
5.会議設計・実行力(ファシリテーションスキル)
コンサルタントにとって、会議はある種、成果を出す「試合(戦場)」みたいなもので、一つひとつの会議の質がプロジェクトの成功を大きく左右します。事前準備から当日の運営(ファシリテーション)を通じて会議の目的を達成するスキルはコンサルタントにとって必須です。
スキル習得のポイント
- 会議の目的、ゴールを定義し、出席者と認識を合わせることを習慣づける
- 会議当日に想定される出席者のリアクションや質問に対する対応方法を事前にシミュレーションする
- シミュレーションした内容に基づいて議事を進行し、出席者に質問を投げかけたり、話を振ったりするなどして、到達したい目的・ゴールに向けて会議を導く
- 会議終了後、ラップアップ(振り返り)を行い、次の会議に向けて改善点を検討する
6.タスク管理スキル
コンサルタントの仕事は基本的に期間が有限であり、その期間内でやるべきことを効率的かつ適切な品質でこなさねばならず、その実現のためにタスク管理のスキルは必須です。1日でできる仕事量を見積もりながら計画を立て実行し、進捗に遅れが出た場合はリカバリー策を考え、必要に応じて上位者に報告するといったことを行います。
まずは自身のタスク管理から始めて、それができるようになるとメンバーやプロジェクト全体など難易度の高い管理をしていくことになります。
スキル習得のポイント
- タスクの目的を常に意識する
→作業することが目的化してしまい間違った方向に作業を進め、手戻りとなるリスクが高い。 - 他者が関係する(自分だけでは進められない)タスクはリードタイムを考慮する
→相手の回答待ちなどにより進捗が滞る可能性があるため、それらを考慮した計画にする。 - タスク管理ツールを使う
→抜け漏れや期限切れがないように管理する。情報共有を効率化する。
7.やりぬく(考え抜く)力
最後はマインドセットに関するスキルです。コンサルタントはクライアントの期待に応える(期待を超える成果を出す)ために「もっと良い解決策はないか?」「クライアントにもっと刺さるメッセージはないか?」などを限られた期間やリソースの中で考え続けなければなりません。
また、クライアントができなかった課題解決にお金を払ってまでコンサルタントに依頼しているので、その依頼に対してプロフェッショナルとして責任を果たす能力(コミットメント力)は非常に重要です。このようなマインドを持てないコンサルタントに今後の成長は期待できないでしょう。
スキル習得のポイント
- 自身のアウトプット(成果)が対価に見合っているか自問自答する
- チャレンジする
→自分が頑張らないと誰も助けてくれない環境を自ら作る。 - 失敗や挫折を経験する
→苦しい過酷な経験をするたびに一皮むける。
【筆者体験談】業務を通じて感じたこと
ここからは筆者の体験に基づいてコンサルタントの業務について感じたことをお話しいたします。
コンサルタントになる前と後のギャップ
一言で言うと「コンサルってこんなに泥臭いんだ」ですね。
なる前は、クライアントからの相談にぱっと解決してプレゼンも颯爽とやってとスマートなイメージがあったのですが、数字の集計・分析から、インタビューの整理まで細かく緻密な作業が盛りだくさんです。何かを提案するためにはその裏取りとなるファクトや数字を押さえないといけないので必要なことですし、そこから得られる気づきも大いにあるので重要性は高いのですが、「細かい作業が多いなぁ」が最初の印象でした。
入社してみて、こういうスキルも必要だ!と痛感したエピソード
私が必要と感じたスキルは、
「見せ方・見え方をよくする(工夫する)」スキルです。
あるクライアントの現場向け説明会を担当したときに、出席者から質問を受けたのですが準備していない質問だったので、どぎまぎしてしまい、固まってしまいました。その様子を見ていた上司から
「間違っていてもいいから何か答えなさい、フォローするから。本当に分からなかったら『後で調べて回答します』でもいいので、自信満々に振る舞いなさい」とご指摘いただきました。
聴いている人からすると自信なさそうな人の話は不安になりますよね。プレゼンする内容も大事ですが、振る舞いや態度も重要だなと実感しました。
また、コンサルタントの仕事はクライアントにとって耳の痛い話をしないといけないときがあります。文章にすると強めの言葉にとられてしまうのと、その言葉だけがひとり歩きして、読んだ方が感情的になり、進む話も進まなくなってしまうこともあります。
ですので、言い方や表現の仕方は注意が必要です。
「貴社の業務は無駄が多いです」→「貴社の業務は生産性向上の可能性が大いにあります」
「貴社の従業員はスキルが足らないです」→「貴社の従業員のスキルはまだ成長途上です」
と言い換えるだけでもかなり印象が変わりませんでしょうか。
このような見せ方・見え方を工夫するスキル(ある種のコミュニケーションスキルかもしれませんが)は物事を円滑に進めるうえでは非常に重要なスキルだと感じています。
必要なスキルの中での優先順位
最優先は、「論理的思考力(ロジカルシンキング)」だと私は思います。
このスキルは、コンサルタントにとって最もベーシックかつ重要なスキルだと考えています。このスキルを習得することで、話が伝わりやすくなる、資料が分かりやすくなる、タスクの抜け漏れが減る(ミスが減る)、物事を理解するスピードが上がるなどあらゆる活動にもたらす効果が大きいからです。
次点は「タスク管理」でしょうか。
タスク管理には自分のTo-Doを管理するだけでなく、効率よく進める「段取り力」だったり、進捗を管理して適切に上司に報告する「コミュニケーション能力」も含まれていますので、仕事の基本所作がトータルに求められるスキルであると考えます。
自身が習得するのが難しかったスキル
論理的思考力(ロジカルシンキング)ですね。
私はコンサルに転職する前は事業会社で営業をしており、コミュニケーション能力やフットワークの軽さには自信があったのですが、深く考えたり資料を作ったりする経験は不足していました。
当時の上司に資料をレビューしてもらったり、検討の進め方を説明しても、
「なんでこの内容からこの結論になるの?」「これはどういう根拠で説明しているの?」
「この検討、XXXの観点が漏れてない?」「お客さんから〇〇って言われたらなんて答えるの?」
などの質問や指摘攻めにあい、挙句の果てには、「仕事が全体的にやっつけなんだよね」とも言われていました…。
私は、上司の質問や指摘が「重箱の隅をつつくようなことだなぁ」とか「お客さんもそこまで考えないでしょ」などと思いながらも、上司からの質問攻めに対応する中で、徐々に指摘されることが減ったり、質問されてもちゃんと答えられるようになっていったりと、少しずつですが論理的に深く考える力が身に付いていきました。
後々、振り返ると確かに当時の私は、思考の深さや広さが足りておらず、「やっつけ仕事」と言われてもしょうがないレベルだったなぁと思います。この経験は、私のコンサルタント人生の中ではターニングポイントで、この時に培われた基礎スキルは今も活きていると考えています。当時、ご指導いただいた上司や先輩方には大変感謝しています。
できるコンサルタントとは
私が考える「できるコンサルタント」は、以下のような人物だと思います。
- オピニオンリーダー
顧客や業界・社会などに対して自身の考えや意見を提言できる人。借り物の知識や当たり障りない話ではなく、独自の切り口や問題意識で幅広い人に共感や影響を与えられるような意見が言える人。 - 周囲を巻き込める人
業界や社会にインパクトを与える大きなビジョンを持ち、そのビジョンを実現するために関係ステークホルダーを巻き込みながら、取り組みを推進することができる人。
一言で言うと、「企画構想力と実現推進力を用いて、社会にインパクトを与えられる人」が「できるコンサルタント」だと思います。
まとめ
ここまでコンサルタントに必要なスキルやその習得ポイントについて説明してきました。コンサルタントといっても基本的なスキルは、すべてのビジネスパーソンに求められるスキルと大きく変わらないことをご理解いただけたかと思います。
コンサルタントは日々の業務やトレーニングを通じて、基本スキルを徹底的に叩き込まれますが、コンサルタントではない方でも日常業務で実践可能なスキル習得のポイントをお伝えしましたので、参考にしていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。皆様のスキル向上、キャリアアップの一助になれば幸いです。